生産者の原価からの価格設定

筆者:合同会社土和竹香 代表社員 古川 寛

地域おこし協力隊として、地域を走り回っていた時に分かったことの一つに、地方の農業従事者の多くに共通して、農作物が適正価格で買ってもらえず、生活が厳しいということがあります。なぜそのようなことになるのかを調べた結果、農作物の価格が市場によって左右されるのが原因であることに気づきました。農業従事者が、この価格で販売したい、この価格でないとその作物を作るのにかかった費用を回収できない、と言っても、「その価格では売れない」「市場にはそんな高いものはない」と一蹴されることも少なくないのです。しかし農業従事者としては、かかった費用の支払いという背に腹を変えられない差し迫った事情があるので、しぶしぶ買い手の言い値で販売してしまうということが多々あるのが現状です。

生産者の現状

それに加えて、そもそも農業従事者の原価設定には人件費が含まれていないため、農業従事者の労働が対価を生んでいない計算になっているのも大きな原因だと知ることになりました。ただでさえ、希望価格では買ってもらえない、高いと言われるのだから、人件費を除かざるを得ないというのも理由の一つですが、そもそも人件費という概念が存在しなかったように感じられました。農業が古くから営まれている業種であり、人件費という概念が生まれる前の価格構造があるということも理由の一つに上がると思いますが、詳しいところは分からずじまいでした。

農業は、食べ物を作るという、人が生きていく上で欠かすことのできないものとも言える重要な仕事であるにも関わらず、その現場に携わる人たちは、その労働の十分な対価を得ることができていないという、何ともずさんな環境にとても驚きました。そして、その環境であるがゆえに、後継者に引き継げないという現実が、社会問題として扱われる田舎の過疎化、高齢化の原因にもなっているという事に気づきました。農業従事者の方たちは「本当は継いでほしいけど、農業じゃ食べていけない。子供を学校に行かせることも難しい。だから他の仕事に就く、家を出ていくのは仕方がない」と口を揃えて言われます。結果として田舎の主幹産業である農業が廃れることにより、若者は仕事を求めて出ていく、という構図が出来上がるのです。
そして何よりも危惧すべきことは、このまま後継者が育たなければ、日本の農業はあと数十年で失われてしまう、ということです。

農の現場を支援する土和竹香としては、この状況に対して、生産者の原価から価格設定をするという方法で、活路を見出していこうと思っております。具体的には、生産者の原価計算に、きちんと人件費を入れ、その上で利益も計上した価格を、生産者原価として扱うようにした独自の原価計算表を使用して、それぞれの商品の価格を算出しております。

生産者の理想

この価格を出すにあたり、生産者の方と何度も話し合いをしておりますが、弊社の提示する価格であれば、農業を続けることに不安はないし、より一層頑張れるとのお言葉をいただいております。

農業だけに関わらず、どの仕事においても、それに取り組むの当たり、やる気をもって取り組めるかどうかは成果に大きく関わるものだと思います。今現在の農作物の価格の仕組みでは、農業従事者としても、本意ではないが仕方なくという部分が強く、やる気を持って取り組むには難しい状態であると考えます。作り手として、本当は質にこだわった良いものを作りたいが、それに見合う価格で買ってもらえない、利益を十分に得られない、先行投資の支払いも不安、という状況であれば、質よりも量を優先せざるを得ないという農業従事者も多いでしょう。適正価格で買うということは、農業従事者のやる気にも繋がることであり、結果として、安全性の高い、おいしい農作物の生産に繋がることでもあります。食という人が生きる上で欠かすことのできない部分に携わる人たちだからこそ、不安なく、良いものを生産できる環境を作りたいと思っています。

生産者の気持ちの変化

そして、消費者の皆様には、農業を取り巻く環境、現状を知っていただき、農業従事者が農業を続けていくための価格であることをご理解いただければと思います。
この生産者の原価からの価格設定が守られることで、農業従事者の生活が守られ、後継者育成にもつながります。これからの日本のために、農業を守るというのも、できることの一つであると弊社は考えます。